ジャンルを問わない突発的作品紹介(続くか不明)


サナララ〜SA・NA・RA・RA〜(2005、ねこねこソフト


…きっと、世界は偶然とか、ちょっとした不思議で満ち溢れていて…


人は誰でも、一生に一度のチャンスが訪れる。
それは、一つだけ好きな願いを叶えてもらえるというもので、その『対象者』には『ナビゲーター』によって知らされる。
『ナビゲーター』の使命はシステムの説明と、願い事を受理すること。
それが終わると今度は『対象者』が『ナビゲーター』となり、新たな『対象者』へとリレーのように巡っていく。


システムにはある程度のルールがある。
[対象者はナビゲーターにある程度引き寄せられる]
 特に用事があるわけでもないのに、気がついたらナビゲーターの居る公園の方へと足を運んでいる
[ナビゲーターは、対象者以外にはほとんど認識されない状態になる]
 透明人間というよりは、誰にも気にされない状況になる。ドラえもんの石ころ帽子を被った状態と言えばわかりやすいだろうか。
 欠勤や欠席をしても問題にならないようで、ナビゲーターを終えた後に苦労している様子はない。
 餓死や事故死はしないようだが、空腹感などは感じる。
[お試し期間がある]
 チャンスを信じない人や、願いを失敗するのが怖い人のために、短期間のみのお試し期間がある。
 お試しで適えた願いは、本お願いを受理されるか一定期間がすぎると消滅する。
 本お願いを受理できる期限は一週間。
[明らかに無理な願いはスルーされる]
 世界そのものを変える願いだとか、そういったムチャな内容のものはスルーされる。
 その場合、チャンス自体が無効。
[ナビ状態が終わると、チャンスに関する記憶を全て失う]
 自分の願いが叶った事や、誰かをナビした事などを全て忘れる。
 記録に残そうとしても、誰かにチャンスのことを伝えようとしても、不可能。


このお話は、そんなチャンスが巡ってきた、四組の男女の物語。
彼ら(彼女ら)はその不思議な出会いの後、願いを叶え、記憶を失う。
そして、ほんの少しだけ、前向きに歩けるようになる。


多分ここ見てるような人はやらないだろうけど、全力でネタバレが入るシナリオ紹介


Story:01 のぞみ
 極度の人見知りで恥ずかしがりや、そしてややぽんこつな女子高生椎名 希未(しいな のぞみ)は、極普通の男子高校生、和也にナビゲーターとして、たった一度のチャンスを届けにきた。


 悪戯心から和也は、お試しお願いで「いっしょに」と願ったことから、二人は約2m以上離れられなくなってしまう。そして、離れられない二人の奇妙な生活が始まる。ベッドが一つしかないので1人は床で寝ることになり、どちらかが風呂に入っているときは風呂場の前で待つ。学校では椅子を並べて授業を受け、昼にはのぞみの好物であるやきそばパンを買ってきて一緒に食べる。雨が降れば、虹を見るために学校の屋上へ向かう。奇妙な生活ながらも、気付けばそれを楽しんでいる二人がいた。


 人と接するのが苦手なのぞみだったが、離れられないことと、ナビゲーターさえ終わってしまえば全てを忘れるという状況もあって、次第に本当の自分を曝け出せるようになる。男性とは三秒も目を合わせられない彼女だったが、和也相手なら服の裾を掴む程度のコミュケーションが出来るようになる。
 和也も、奇妙な共同生活を続けていくうちに、ぽんこつな彼女に惹かれていく。

 やがて、お試し期間の終わりが迫るが、和也はのぞみのことが気がかりだった。全てを忘れてしまえば和也はのぞみと一緒にいる事は出来ない。ナビゲーター状態という前提があったからこそ曝け出せてた本当ののぞみも、記憶を失ってしまえば元のように、他人の視線から3秒しか耐えられないほどの、人見知りで恥ずかしがりやになってしまうだろう。そうなれば、彼女の魅力を伝わる前に、人は通り過ぎ去ってしまうだろうから。
 本お願いで和也はのぞみの顔を隠そうとする癖をなんとかしようと提案するが、のぞみはそれを拒否する。のぞみもそのお願いを自身のチャンスの時に考えなかったわけではない。しかし、こんな自分だからこそ、そのまま愛して欲しいと思っていること。前のナビゲーターの「チャンスはあくまでもチャンス」という言葉の影響。それらの思いと、チャンスなんかに頼るのはプライドが許さず、こんなわたしでも自分の力でと、別のことにチャンスを使った。

 
和也は、のぞみの可能性を自分の勝手では変えられないと悩んだ結果、「のぞみを幸せにしてくれる人と巡り合えるように」と願う。記憶を失って人見知りに戻ったのぞみと、記憶を失ってのぞみのことを忘れた自分ではきっとのぞみとは知り合えないとわかっていたから、幸せにするのが自分でなくても良いから、和也はただ惹かれた女の子の幸せだけを強く願う。
 願いを叶える直前に、のぞみは腕時計を渡す。それは友人との他人の視線に耐える特訓をしていたときに使っていたもの。ナビを終えれば記憶を失ってしまうが、もしかしたら再会できるかもしれない。そんな思いを込めて、「おまじない」として和也に渡すのだった。

 ナビを終えた和也は、のぞみのことを忘れていつも通りの生活を送る。いつも通りに学校へ行き、いつも通りに過ごす…はずだった。
 予想以上に高いテストの点数。のぞみと一緒に受け、答えを教えてもらったテスト。
 突然鳴り響く腕時計のアラームの音。こんなに女の子っぽい腕時計なんて持っていた記憶はなくて。
 雨がやんで、空が晴れる。何故か屋上へ向かおうとする自分が居て。
 身に覚えのない様々なことに頭を捻りながらも、買ったパンを食べていると、普段は買わないやきそばパンがあって。
 やきそばパンを見ているうちに、何故か屋上に向かわないといけない気がしてきた和也は、何故かは自分でもわからないままに屋上へと足を運ぶ。屋上では綺麗な虹を見ている少女の姿があって。人見知りなのか恥ずかしそうにしながらも、顔を隠すのを堪えようとしている姿が何故か気になりながらも立ち去ろうとするけれど、服の裾を掴んで引きとめようとする少女。
 和也は知らない腕時計のアラームの止め方を知っている、人見知りで恥ずかしがりやでちょっとぽんこつな少女と出会ったのだった。


Story:02 Sweet days, Sour days
 男子高校生の雄司は、幼馴染の高槻あゆみのナビゲーターとなる。
 あゆみはお試し期間に好物のキウイについてお願いするが、キウイは何時までたっても消えない上に、数も減らない。キウイに困ったことと、本お願いがすぐに決まっていたこともあって、あゆみは「ステキな恋がしたい」とお願いをする。しかし、雄司のナビ状態もキウイもそのまま。その日は普通に火曜日の一日を過ごす二人だったが、何故か次の日になっても”火曜日”のままで、ループ状態に陥ってしまう。
 あゆみはチャンスの力でループ状態になったのは、製菓教室の留学話が関係しているのではないかと考え、外国のパティシエに認められるようにとお菓子作りに精を出し、雄司もそれを手伝う。


 ループごとにお菓子作りの腕が上達していくあゆみだったが、あゆみの考えが正しいとするならば、腕が上達しきったら留学して、ステキな恋を見つけるという事で、それは自分から離れてしまうということで。雄司は、あゆみと離れたくないがために、留学させないようにとお菓子を台無しにしてしまう。
 雄司は、あゆみはいつか新しい場所(恋人)を見つけるだろうから、いつまでもこんな関係を続けられないと悟るが、自分があゆみの居場所を作ってやりたい、関係が変わったとしてもあゆみと一緒にいたいのだという、自分の気持ちに気付く。
 

 そして次の”火曜日”にあゆみを、学校をサボってのデートに誘う。デート後の製菓教室で、あゆみは完成直前のお菓子をわざと床に落とし、台無しにしてしまう。それは、あゆみが雄司の行動の意味に気付いていたから。部屋に戻り、雄司はあゆみに告白をし、あゆみもそれを受け入れる。
 次の日、ループから抜けたことで、あゆみは自分の本当の願い事に気付き、そしてナビとして次の人へチャンスを伝えにいく。

 全てが終わって記憶がなくなった二人は、幼馴染ではなく恋人同士の関係になっていた。あの体験が、無意識下で二人にきっかけを作ったのかもしれない。しかし、チャンスの力ではなく自分の力で幸せになった二人。
 それまでと変わった新しい関係になった二人は、幸せそうだった。


Story:03 センチメンタル・アマレット・ネガティブ
 ナビゲーターである高畑は、なかなか姿を現さない対象者を待ち続けていた。
 期限である一週間が目前だった時、いつの間にか高畑の近くに現れていた、対象者の三重野 涼(みえの りょう)が声をかけてくる。三重野は中学の時のクラスメイトで、三重野は覚えていたが高畑は覚えていなかった。
 高畑はチャンスシステムについて説明して、三重野にお試し願いをしてもらったが、何故かお願いは叶わない。三重野に別の願いを考えてもらうが、三重野が要求したのは高畑の通う学校へいくことや、そこで学園ごっこをすることだった。
 高畑は折角のチャンスを有効に使って欲しいと思い、お願いとしてではなく、高畑個人として三重野の望みに付き合う。夜の学校で二人きりの授業をしたり、部活動をしてみたり。


 三重野がやってみたかったという演劇部の活動ごっこをしている時、三重野はお芝居の魔法の鏡と女の子の話をする。
 望むものを映し出す呪いの鏡に魅入られた女の子。女の子は鏡とそこに映し出された男の子さえいれば他に何もいらないと考えるようになる。そんな女の子の姿を見て、鏡の中の男の子は胸が苦しくなり、女の子を救うために自ら消えてしまうことを決心する。鏡の中の男の子は、残される女の子に手向けの言葉を遺して笑顔のまま消える。
 『君が思っているよりも、世界はずっと素晴らしいもので満ち溢れている』
 『僕から見れば、君の後ろに広がる世界は、眩しく光り輝いているんだよ』
 『だから君には、光の世界で生きて欲しい』
 『その光から、どうか目を逸らさないで欲しい』
女の子はしばらく泣きじゃくったが、やがて涙を拭くと、鏡から背を向け世界に向けて歩き始める。
 お話を終えた三重野は、お芝居の別れの場面である鏡越しのパントマイムを再現しようと高畑を誘う。


 演劇の次は、高畑が中学時代に活動していた陸上部の活動をする。
 中学の頃の高畑の雄姿を語る三重野に、自分はもう陸上は続けていないことを告白する高畑。それでも、高畑の走るところがみたいという三重野の言葉に動かされ、走ろうとするが、三重野は靴紐がほどけていることに気付く。
 三重野は高畑の靴紐を結ぶが、それは固結びに固結びを重ねたような結び方だった。三重野は、これでもう解けないから、いくら走っても大丈夫だと言う。
 「よーい、ドン」という三重野の合図とともに走る高畑。多分、現役の時よりも遅かっただろうけれど、風を切って走る感覚を思い出し、充実感を得るのだった

 期限切れ直前の夜明け前、学校を巡回している宿直の先生に見つかってしまう。しかし、何故か先生は三重野に気付かなかった。ナビ状態である高畑はともかく、対象者である三重野は普通の状態なのに、何故気付かれなかったのか。
 三重野は、屋上で真実を語る。今の自分は、高畑の願い、「自分以外にチャンスを必要としている奴にまわしてやってくれ」、のおかげで生霊のようなものとしてここに居るのであり、本当の自分は病院で既に死んでいるのだという。先生に気付かれなかったのも、『一生に』一度のチャンスを叶えられないのもそのせいだと。
 夜明けが迫り、屋上のフェンス越しに別れを迎える二人。それは三重野が話した、お芝居の別れの場面のようだった。三重野は、高畑に手向けの言葉を遺す。それはお芝居の別れの場面での台詞。
 ただ、お芝居と違ったのは三重野の言葉が別れを告げる言葉ではなく、スタートを切るための号令だった。


 ナビを終え、全てを忘れた高畑。学校で、中学時代に同級生だった三重野が死んだことを聞き、葬式へ参加するか否かを聞かれるが、行かない意思をつげる。知りもしない人間が葬式にきたところで相手方も困るだけだろう、と。
 ほとんど覚えがないとは言え、同級生が死んだことで感傷的になった高畑は、普段は行かない学校の屋上へと足を運ぶ。屋上で景色を見ているうちに、三重野と中学時代に会っていたことを思い出す。陸上が出来ていたことで天狗になっていた自分と、やりたい事をやっている高畑を羨ましがる三重野。増長していた過去を忘れたいと思いながらも、屋上を後にし、帰ろうと靴を手にする。
 靴箱から靴を取ると、靴紐が無茶苦茶に結ばれていた。誰がこんな悪戯をしたんだ、と憤りながらも、固結びにされた靴紐を見ているうちに、誰かの言葉を思い出す。
 誰の言葉かわからない。けれど、その言葉に何故か涙が出て。そのスタートを切る合図は、高畑の背中を押して、前へと突き動かすのだった。


Story:04 “Summer Holiday”
 お試し期間のみを叶えて、本お願いを受理しないことによって、ナビ状態を半年間続けていた芳沢 洋一(よしざわ よういち)。
 彼は、この誰にも気づかれないと言う特権が気に入り、この「裏技」によってアウトドア引き篭もり生活でやりたい放題に生きていた。次の対象者である矢神 由梨子(やがみ ゆりこ)が来た時も、同じようにお試し期間だけで済ませようとしていた。
 しかし、由梨子はこのチャンスを冗談だと思い、「みんな居なくなれ」とお願いしてしまう。その結果、世界からは二人以外の人が消える。洋一と流される形になった由梨子は、期限まで誰も居ない世界で遊ぶことを決める。


 最初は誰も居ない世界を楽しんでいた洋一だったが、由梨子と過ごしていくうちに今の自分の虚しさに気付いていく。
 趣味で描き続け、上手い上手いと言われつづけて来た絵。それが専門とする大学に入学した時から、自分には超えられない壁があることを知ってしまう。自分には無理だと折れ、かといって普通の道にも歩みたくなかった洋一は、描いたものを塗りつぶす、塗装屋になっていた。しかし、かつての自分と同じように絵を趣味としている由梨子に出会い、少しずつ意識は変わっていく。
 今まで絵を完成させたことがない、という由梨子。洋一は、プールの壁に絵を描くことを提案する。ラクガキだらけのプールの壁。そこに絵が描かれればラクガキもされなくなるだろう。そう言って、由梨子を誘う。それが建前だと理解はしていたけれど、由梨子は誘いに乗り、プールの壁に絵を描き始めるのだった。
 由梨子に構図を任せた結果、砂浜を走る男女のカップルの絵に決まる。下書きをし色を塗る段階になった時、由梨子から海を塗る色がないと言われ、洋一はペンキを混ぜ合わせて新しい色を作る。
 サクラ、ナタネ、ラベンダー、ライトブルーを混ぜ合わせて作った、エメラルドグリーン。「最後だけ花じゃないんですね」由梨子はそう言いながら、新しい色に名前をつけようと提案する。
 頭文字を取って「サナララ」。安直だと笑いながらも、サナララ色を使って海を塗り始めるのだった。
 

 風邪に倒れたことによって、チャンス期間に絵は完成しないが、絵を描き始めたという事実は残る。けれど、記憶は消され、目印を残す事は不可能という、再会を望んでも叶わない、残酷なシステムのルールを嘆く。絵は残っているけれど、もう一度二人で描けるかはわからない。
 それでも由梨子は、また二人で絵をかけるかもしれないから、と刷毛を望む。洋一は、再会できるという奇跡を望みながら、ナビの役目を終える。


 全てを忘れて仕事に戻った洋一は、お得意様の学校で見かけたプールの絵の事がきになり、自分が完成させたいと願い出る。親方に許可を貰い、完成させようと作業していると、誰かも完成させるために塗装していることがわかる。昼に作業している洋一と、夜に作業をしていると思われる誰か。会うことはない、奇妙な共同作業が始まった。
 絵を完成させようとするけれど、どうしても海の綺麗なエメラルドグリーンを再現することが出来なかった。完成の期限までもう時間が無い。未完成で終わらせたくはない洋一は夜にも作業を行う。違う色で塗るしかないか、そう思ったとき、同じように作業をしにきた由梨子と出会う。由梨子に海の色のことを尋ねるが向こうも知らないのだという。
 しかし、塗料の缶に描かれていた「サナララ」という文字を目にしたとき、二人の口から自然に言葉が続いて紡がれる。
 サクラ。ナタネ。ラベンダー。ライトブルー。「最後だけ、花じゃないんですね…」
 それは、それぞれは互い違いで、不揃いで。でも、合わさって、初めて、意味を成すもので。絵は二人の手で完成させられて、その証であるイニシャル、『Y・Y』が二人分サインされていた。



・ネット上での評価とか
 シナリオの評価は4132、もしくは3412の順番になる事が多い。
 3の位置が変わるのは、3章は他に比べて感動路線だから。直接的に泣かせに来てると言って良いかも。
 2は多くの評価で最下位。多分、あまり「チャンスシステム」の設定を活かせてないからだと思う。
 1章はサナララの導入としての完成度が高く、チャンスシステムの内容、それに関わる人の動きが上手くかけている。
 4章はサナララのタイトルの意味、システムを使ったシナリオ展開の完成度などが評価が高い要因か。
 泣ける、という意味でなら3章を一番にあげる人が多いと思う。


 なお、4章のエンディング前を描いたドラマCDにて、由梨子がナビゲートした人物が「二人がプールの絵を完成できますように」と願っていることがわかり、その結果4章のエンディングに繋がる、とわかる。蛇足と取る人もいるようだが、サナララが奇跡を描いた作品ではない、と象徴するシーンでもあるので俺は良い補完だと思います。
 まあ、チャンスシステム自体が奇跡みたいなものだ、と言われたらうなづくしかないんですが…